行政事務へのAI導入の障壁?DX推進先進県の鳥取が禁止を表明した本当の理由は?

ITとAIとデザイン

当ブログでも何度か取り上げている対話型人工知能「ChatGPT」ですが、本日4/20のニュースで鳥取県知事が「県の業務で使用することを当面禁止する」と発表したこと伝えられ大きな波紋を呼んでいます。以前取り上げた神奈川県横須賀市とは真反対の方向性をあえて打ち出したその本当の理由はいったいどこあるのでしょうか。

まず、同知事がChatGPT禁止にあたって特定の県行政業務名を挙げたことに着目しています。定例記者会見から判明しているその業務名は「答弁資料作成」「予算編成」「政策策定」です。

一見バラバラに見える業務名ですが、ある一点がこれらに共通して見えてきます。

鳥取県知事が挙げたChatGPT禁止の対象業務から透けて見えるもの

定例会見の内容から、対話型AIがもつ業務への”革新性”を否定はしないとしながら、「自治体の意思決定に関わることは機械任せにしない」と発言されていることがわかっています。

わたしは直感的にこれが答え合わせだと感じたのですが、共通して透けて見えるもの、それは「議会」です。行政においては「知事と議会」は”両輪”と呼ばれる存在です。特に、議会の役割としては県知事のワンマン化を防ぐための審議機関として機能することが求められています。どちらも県民の意見や意識を吸い上げるのが仕事ですが、双方の健全な討議があった上でより良い政策を進めていくのが本質的な存在価値となります。

そのため、いくら行政側がAIによる生産性向上を掲げようとも、対する県民の声は”生”でありAIが発したものではけしてないため、この議会が絡む「答弁資料作成」「予算編成」「政策策定」の3つが会見場で挙げられたはずです。

それ故、同知事はここに対話型AIを持ち込むことを「民主主義の自殺」と表現したのでしょう。

行政が導入すべき対話型AIのありかた

昨今、行政がChatGPTのような対話型AIを業務に導入するにあたっての問題点が明確になってきました。回答内容の正確性の保持、担保、入力する内容に個人情報や機密情報などが含まれることなど、いずれも秘密保持、情報漏洩の課題です。

しかし、AIがもたらすのは生産性の向上であり、これによる市民サービスの迅速化はただしい行政の進化の道です。そのため、このような情報漏洩の課題に対する説明は誤っています。

漏洩する、ということはつまり、庁内でのデータ入力に留まらず、庁外部のAIサービスへアクセスしていることを意味します。それ故、本来ならば「庁外のAIサービスの利用を禁ずる」としなければなりません。

対話型AIはなにもChatGPTだけではありません。facebookのMETA社が1750億パラメータAI言語モデルのOpen Pre-trained Transformer(OPT-175B)をオープンソース化したことが以前話題となっていました。こうした言語モデル(自然言語による質問応答や文章生成などができるAI)を庁内という閉じられた環境で(外部ネットワークと接続することなく)生産性向上につながる部分のみを鍛え上げていき、そして順次置き換えていく、という試みがあって然るべくだと思います。

今回のニュースにおいてはメディア側の報道として”切り取り”の要素もたしかにあるでしょう。一連の報道への今後の動向を見ながら引き続き検証していきます。