マイナンバーカードのほんとうの価値を考える。

子育てと家族力

令和5年3月23日、岡山県備前市市議会で世帯全員のマイナンバーカード保有を条件として、コロナ禍における子育て支援の一環として実施していた公立の小中学校の給食費、保育料、学用品などについて無料化、減免を来月4月1日からも続けることが決まりました。市営バス運賃などの無料化も同条件で実施することが決まっています。このニュースはすでに日本全国で大きく取り上げられており、今回可決したことはさらに議論の輪の広がりを見せています。

ネットのコメント欄を含む世論としては、やや”反対”意見が強く見受けられると受け止めています。私は、この議論の焦点がどこにあるかについて注目していましたが、大きく2つの点になるのではないでしょうか。ひとつずつ見ていくとこんな感じです。

  1. そもそも任意取得のはずのマイナンバーカードで差別化するのはいかがなものかという意見
     この意見がもっともつよく見受けられます。不公平感が拭いさることができない、ということですね。議論の時間をあまり持たずに急に決まりすぎたことも原因のひとつですが、任意のマイナンバーカード取得制度なのに強制するものでは?との抵抗感が見受けられます。私自身は、e-Tax(イータックス)などの電子申請で長らく活用しており、その”出かけなくて済むという利便性の高さ(タイパ)”や、稲沢市で認証、発行されていることの信頼感から、マイナンバーカード保有の抵抗感自体はありません。「持っていることに”ほぼ”デメリットがない」と考えています。そもそも、戸籍や住民票などの個人情報はすでに市がデータとして保有していますし。保険証なども含め、ITにたずさわるものとして一元化の流れには基本的に賛成の立場です。
  2. 無料の対象を子供を含む世帯全員がカード所持することに限定するのはいかがなものかという意見
     この点がもしかしてハードランディングと捉えられているのではないでしょうか。ほとんどのニュースの見出しが”マイナンバーカード取得を条件”としているので、1番が多数意見になっているようですが、実はこの”全員”という条件設定をつけることが、備前市として一番たいへんだったのではと推測しています。次にご紹介するサイトのマイナンバーカード取得のデメリットの説明がとてもわかりやすいです。

1つめで、ほぼデメリットがないとしましたが、このことを上手に深掘り説明しているサイトがあります。セゾンの暮らし大研究というサイトの「マイナンバーカードを絶対作らない理由とは?デメリットは何?徹底解説」というページです。こちらから少し引用させていただきつつ見ていきます。

持たない理由として、通知カードで間に合っている、必要性を感じていない、何となく抵抗があるを挙げられています。この通知カードが気になりますが、これはマイナンバーの通知の際に送付されるもので、顔写真は貼られていません。総務省がいうとおり、マイナンバーの確認のためのみ利用することができる書類で、一般的な本人確認の手続きにおいて利用しないことを事業者に注意の呼びかけをしています。

総務省ホームページで上がっている通知カードのサンプル

そしてデメリットですが、同サイトでは次の3つが挙げられています。

  • 個人情報漏洩のリスク
  • セキュリティ体制への不信感
  • 銀行口座との紐づけへの不安

上のふたつについては、先程のとおりいずれにしても個人情報のデジタル化は避けて通れないものであり、行政を信じるほかに術がありませんし、運転免許証と同じく利用者・保有者が気をつけるべきことも多いはずです。

そして、重要度としてはひとそれぞれになりますが、上から3つめの「銀行口座との紐づけ」についての抵抗感は実際にあると思います。コロナ禍ではさまざまな給付金がありました。間違った見方かもしれませんが、あれは国全体のデジタル化へ向けたひとつの社会実験でもあったのかなと考えています。マイナンバーカードに銀行口座の情報が含まれていればたしかに大幅な送金事務手続き削減につながります。

その上で、「政府(行政側)に自分の資産状況を把握されてしまうのでは?と不安に感じる方も多いよう」だとされています。これについて政府の中でもデジタル庁においては同庁発足前より内閣府ホームページ上で公開されていたものという注記の上で「よくある質問:マイナンバー制度について(総論)」というQ&Aのページを設けています。そのQ1-5「マイナンバー制度が始まると預貯金や資産まで行政の職員などに見られてしまうのですか。」という項目で「マイナンバー制度が導入されたことで、行政の職員が新たに預貯金や資産などを見ることができるようになるものではありません」と回答がされています。

しかし、Q1-3では「マイナンバー制度導入による具体的なメリット」を挙げていますが、その中の3つ目で「所得をこれまでより正確に把握することで、きめ細やかな社会保障制度を設計し、公平・公正な社会を実現することです。」と説明しています。

その説明としてQ1-4「マイナンバーはどのような場面で使うのですか。」という設問に対し「マイナンバーを誰がどのような場面で使っていいかは、法律や条例で決められています。具体的には、国の行政機関や地方公共団体などが、社会保障、税、災害対策などの、法定された行政手続で利用することになります。国民の皆さまには、年金、雇用保険、医療保険の手続や生活保護、児童手当その他福祉の給付、確定申告などの税の手続で申請書などにマイナンバーの記載が求められます。」とされています。この中の税務調査にかかる部分が抵抗感として受け止められています。

そして、同ページの中では「マイナンバーそのものを使わない利活用が可能であり、民間活用を含め、デジタル社会の重要な基盤として、最大限活用していくこととしています。(2022年12月更新)」との記載があります。ここまで長く書いてきましたが、備前市の今回の決定であまりクローズアップされていないよう思えるのが次の点です。

市が国のデジタル田園都市構想に呼応して、マイナンバーカードの取得率を上げるため提案したもの(OHK岡山放送)

https://news.yahoo.co.jp/articles/a28a6bfc6e59c6a435d867af68adcce96cd5a63c

このデジタル田園都市構想ですが、政府はこう説明しています。

現在、地方は、人口減少や少子高齢化、産業空洞化など様々な社会課題に直面しています。デジタルは、こうした社会課題を解決するための鍵であり、新しい付加価値を生み出す源泉です。デジタル田園都市国家構想は、デジタルの力で、地方の個性を活かしながら社会課題の解決と魅力の向上を図ります。そして、「地方に都市の利便性を、都市に地方の豊かさを」を実現して、全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会を目指します。(内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局)

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digitaldenen/index.html

今回、どういった経緯で全国に先駆けて備前市がこの決定をしたのかについての事情はわかりません。ただし、カード取得率に対する地方交付税交付金の制限など、政府の方針に沿ったものであることは間違いないようです。

上のとおり、今現在の日本の各地方では、人口減少、少子高齢化などの問題にぶつかっています。高福祉な市まちほど、住民の定着率は高いものと一般的には考えられます。ただし、福祉には莫大なコストがかかるため、独自財政での負担ではカバーしきれていないのが現状です。国からの補助がなければ成り立ちません。その国も、すべてではありませんが大都市の豊富な税収から補助をひねり出しています。

このあたりのバランスを含めると、マイナンバーカード普及による経費削減はあって然るべくと考えます。統合されればされるほど、他に流用できる予算が増えるためです。ただし、とうぜん行政側が効率的でスマートな一元化システムを運用・管理できるかは大きな課題となってきます。また、セキュリティーについても高度な技術とリテラシーが求められます。AIであるChatGPTの出現により、人員削減も視野にこの議論はさらに加速するでしょう。

日本全体のバランスとそれぞれの市まちの福祉・財政バランスの狭間で、行政としての決断力、実行力が試される時代になってきました。その意味で、今回の同市の決定は”民間企業的”だと感じています。コンパクトな組織ほど、迅速な意思決定が可能ですし、求められます。

この件と密接にリンクしているものと考えていますが、以前にエントリーで触れましたとおり、稲沢市でも保育園、学校の統廃合は大きな課題となっています。

お隣の愛西市ではすでに一定の決定に基づいた統廃合の熾烈な議論がはじまっており、こちらもニュースとしてクローズアップされています。今後「稲沢市内人口の地域偏在と学校統廃合・その2」としてこのマイナンバーカード議論と同じ視点でエントリーしたいと下書きを推敲しています。