自転車ヘルメット着用の先進地「愛知県」

自転車の安全利用

来月令和5年4月1日から、改正道路交通法の施行により、自転車利用者のヘルメット着用が努力義務化されます。地域のネット界隈を見渡してもこのニュースに意外と触れられていません。

というのも、この愛知県では、「自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」が制定され、すでに2021年4月1日に施行されているからです。全国に1年先駆けて動き出した愛知県ですが、その効果は意外と高く出ているように見受けられます。

先進地である愛知県の取り組みをはこんな感じです。

  • 自転車の安全で適正な利用を促進する
  • 市町村及び関係行政機関と相互に連携して、自転車を安全に利用することができる道路交通環境の整備を進める。
  • 自転車の安全で適正な利用に関する教育を推進するとともに、情報の提供その他必要な支援を行う。
  • 自転車利用者の乗車用ヘルメットの着用を促進するため、情報の提供、啓発その他の必要な措置を講ずる。
  • 自転車損害賠償責任保険等への加入を促進するため、情報の提供、啓発その他の必要な措置を講ずる。

”自転車に乗る人”のことを思えば、対象は老若男女問わずとても幅広い世代にまたがり、実際に自転車にまたがって走るのは公道上です。上の取り組みには、ターゲット層の莫大さに対する苦悩が滲んでいます。そして、自転車の普及の歴史から見て、日々の移動の手段としてここまで市民権を獲得するとは誰も思いもよらなかったという反省もうかがえます。

「昔は自転車を月賦(ローン)で購入するくらいの高級品だった」

そんな逸話を耳にすることがありますが、平成の頃にはすでに中国製で1万円以下の格安自転車が出回るようになり、自転車にあまり価値を見出すことができなくなった時期がしばらく続きました。

それが、漫画の影響もあってか、機能性、品質に富んだロードバイク愛好家を街で見かけない日はなくなり、原材料費が高騰する今となっては最低ランクの自転車もそこそこのお値段がします。

さらに、電動アシスト自転車の普及が、シティユースでの自転車の機動性、可搬性の価値をじわりじわりと高めていき、加えて、バッテリーそのものの高容量化、コンパクト化、リチウムイオン化が拍車をかけたのが現在ではないでしょうか。

つまり、これまでの時代の流れの中ですっきりと淘汰され洗練された自転車という移動手段の現状に、装備や道路などの安全性の担保が追いついていないのです。

ヘルメットをかぶる”努力義務”

自転車事故が増加していく中で、「被害者にも加害者にもならないように」という考えそのものが浸透してきました。実際の事故事例の中には、目も当てられないケースがあります。

こうしたインシデントに対する意識向上の取り組みとして、以前、稲沢市の消費生活モニターの活動の中で、セミナーとしてひと枠いただいて講演した経験があります。

自転車でだれかにぶつかった、なんて経験をお持ちの方は、ほんとうに軽微なものも含めれば実際はけっこうなパーセンテージとなるでしょう。

表立ってないだけ、といわれればそこまですが、逆に、あえて逆に考えると、自転車による加害事故がここまで少なかったのは、なにか奇跡的なようにも感じます。

自分で運転を誤ってころんじゃった。すりきずいっぱいだけど消毒してがまんした。
よそ見してたら側溝に落ちた。

よく聞く話ですが、骨折などの重症まで至った話はあまり聞いたことがありません。

そう、最大のライバルである自動車との事故以外は。敵じゃないですよ、自動車は。共存すべきおなじ車両枠の同族です。

けれど、自転車の高性能化にあわせるためには、個人差のはげしい乗る側の運転技能よりもまず「防衛運転」の意識が重要となってきます。だからこそ「急激な変化を求めません。けれども、まず自分たちで最低限身を守る意識を常にもって!」という「努力義務」となっているはずです。

自転車安全整備士・自転車技士として考える安全なヘルメット

愛知県の条例、改正道路交通法ともに、技能や整備のことにはあまりくわしく踏み込んでいないので、自転車安全整備士・自転車技士の有資格者として触れてみます。

自転車用ヘルメットの着用の目的は、軽微な転倒や事故による頭部の保護であることは語るまでもありません。しかし、個人的な経験から申し上げると、顔面、特にあごの保護も頭部同様に意識すべきです。

すると、最適解はおのずとオートバイ用のフルフェイスのヘルメットになります。

電動アシスト自転車では、最大速度上限24km/hの規制があります。この速度は、ある条件を満たした場合けっこうなスピード感になります。すると、たいていの人間の視野は、横に広がるのではなく、まず縦に短く収束していきます。その結果、運転中に予測できないイレギュラーな事象に遭遇したときの危険度が高くなるわけです。

自転車ならば即転倒につながります。そんなとき、柔道で言う受け身のような感じですが、とっさの判断で人間はうまく丸まって衝撃を逃す努力をします。意外とするんです。しかし、その努力も虚しく、速度に比例して転がっていく距離も伸びます。その伸びた先が、常に安全な平坦地であるとは限りません。

だからこそ、フルフェイスを推奨します。

「自転車用のフルフェイスヘルメット、なんとかしないと」

と、いつも車の運転中に中学生の自転車の列を見ると思います。

路側帯もせまく、ガードレールが間際にせまる中、重~いバッグを背負ったその上にかっぱを着て、真横を自動車に数十キロの速度差で抜かれつつ、荒れた道路の上を白い息を吐きながら走る、雨の日の中学生の自転車の列を見るたびに、です。